Loom Knittingに対して思うこと(編み物界の「車椅子」としてのLoom)

 私はLoom Knittingを「編み物の世界における車椅子」のような存在だと思っています。
 棒針の方がなんでもできる。自由度も高いし作るのも早いし道具もかさばらない。それは否定しません。

 けれどそれは、「自分の足で走った方が早い」と言うのと同じだと思うのです。

1. 入り口としてのLoom

 Loom knittingの技法は、日本においても、子供ならばリリアンや指編み(指を使ったリリアン)を通して経験するチャンスがあります。そしてそこでできるものはメリヤス編みの生地であり、編み物であることには間違いはないのです。

 けれど、日本においては未だに、「その先」へとつながる土壌が形成されていません。また、「リリアン」にたどり着くことができても、その先に豊かな編地の種類があることは知られていません。

 

 おそらく現時点でもっとも入手しやすいLoomは百均系列で販売されているリリアンシリーズですが、説明文の少なさ故か、ただひたすらに表編みを続けることしかできない道具として受け止められているような空気感があります。

 

 ハマナカさんの「アンデミルミル」もLoomと同様のことができますが、発売されている教本「アンデミルミルで編むあったかニットこもの」の中では、表編みと裏編みを中心とした紹介に留まっており、ケーブル編みや透かし編みといった複雑な技法は紹介されていません。

hamanaka.jp

アンデミルミルで編むあったかニットこもの | ハマナカ手芸糸

 

 学研さんのニッティングルームも同様です。表編み、裏編み、またロングルームを使用したダブルニッティングは紹介されていますが、アラン模様などは紹介されていません。

『ニッティングルーム スターターキット 帽子、ネックウォーマーが簡単!フラワーモチーフも作れちゃう!』 | 学研出版サイト

『毛糸の編み機 ニッティングルームⅡ ロングルーム もよう編みやコード編みで、マフラー、バッグや、アクセサリーが作れちゃう!』 | 学研出版サイト

 

2. 行き止まりの現状

 上記の状況の中で、この技術が英語圏で「Loom knitting」と呼ばれているということを知ることができるのは、唯一、学研さんの「ニッティングルーム」のみと言えるでしょう。またこの「ルーム」という呼び名が、翻訳のしづらさから日本での普及しづらい原因につながっていることも推測されます。

loomknittingfordoll.hatenablog.jp

 英語圏で検索することができれば、英語圏で豊かに発展しているLoom knitting文化や最新の技術、道具を知ることができますが、名前を知らなければさらに深く学ぶことすらできない状況があるのです。

 仮に指編みなどでLoom knittingを楽しむことができる人、リリアンに夢中になれる人が現れても、そこから先の世界につながるには、障壁が高すぎる状態と言えるでしょう。

3. 補助具としてのLoom

 Loomは編みたいものごとに合わせて切り替える必要があるために種類が多く必要で、その割にLoomを多種販売している店舗は非常に少なく、入手しづらい状況があります。利用している人口も少ないため、普及するのにはハードルが高いと言えるでしょう。

 けれどそれは、車椅子の利用者と同様と言えるのではないでしょうか。

  • 大きくてかさばる
  • 複数種類を所持し、用途ごとに道具を使い分けなければならない
  • 専門店が少ない
  • 利用者が少ない

といった共通点は、Loomと車椅子どちらにも言えることだと思います。

 棒針編みを「歩ける人の靴」に例えるならば、Loomは歩けない人、歩けなくなった人のための車椅子と言えます。Loomは棒針編みができない人でも、関節炎などで棒針編みができなくなった人でも、棒針編みと同じような編み物ができる道具です。

 

4. Loom knittingの普及を願って

 だからこそ私は日本でもLoom Knittingが普及してほしいと願っています。それは、棒針編みを諦めていた人へ手を差し伸べることができる手段だからです。

 また、車椅子の世界にもバスケットボールやテニス、競走などの多彩なスポーツが存在するように、Loom knittingにも豊かな編み物の世界があることが広く知られていくことを願っています。

 

 車椅子と同様の、障害に対する補助具の中には、「眼鏡」があります。眼鏡はそのニーズの多さによって、視力障害のための補助具からおしゃれの道具へと昇華していきました。故に、今は全国あちこちに店舗やブランドがあり、豊かなデザインを選び楽しむことができるようになっています。

 なので私は、現状は「車椅子」のような存在のLoomが、いずれ「眼鏡」のように日本でも広まることを祈っています。

 使える道具の種類がたくさんあった方が、作る楽しみを広げることができるのですから。